はじめに
2020 年以降、リモートワーク・在宅勤務が急速に広がり、犬や猫と過ごす時間が大幅に増えた家庭も多いでしょう。米国動物行動学会(ABS 2023)は「飼い主の在宅率が 50% 以上になると、ペットの生活リズムが平均 2 週間で変化する」と報告しています。本記事では最新研究と実例をもとに、在宅勤務がペットの睡眠、運動、ストレス、健康指標に与える影響を多角的に解説し、飼い主ができる調整ポイントを提案します。
第1章 在宅勤務の普及とペット環境の変化
1-1. リモートワーク率の推移
総務省調査(2024)によると、日本のテレワーク実施率は 2019 年の 9% から 2024 年は 26% に上昇。東京都23区では 40% を超えています。飼い主が家にいる時間が 1 日平均 3.8 時間増えたことで、ペットの生活空間や刺激環境が変化しています。
1-2. 飼い主のスケジュールシフト
オンライン会議と集中作業の“オンオフ”が 1 時間単位で頻繁に切り替わるため、散歩時間や遊び時間が細切れになりやすい傾向(Pet Wellness Lab 2023)。
第2章 生活リズムの主な変化
2-1. 睡眠パターン
犬は本来 1 日 12〜14 時間の浅い睡眠サイクル。飼い主の動きが増えると昼間の睡眠が最大 20% 減り、夜間に深い睡眠をまとめて取る“二峰性パターン”から“単峰性パターン”へ移行しやすい(J Vet Behav 2022)。
2-2. 運動量とエネルギーバランス
FitBark® データ 1 万頭分析では、在宅勤務家庭で犬の 1 日歩数が平均 1,200 歩増。しかし飼い主が運動を細切れに与える場合、心拍数 120bpm 以上の有酸素運動時間は 15% 減少し、体脂肪率は 3 か月で 1.5% 増加した例も。
2-3. 食事とおやつ頻度
飼い主がデスクワーク中に“気晴らしフード”を与えることで、間食回数が 1.8 倍になったという国内アンケート(ペットフード協会 2023)。高カロリーおやつが肥満リスクを上げるだけでなく、血糖の乱高下が行動過活性につながるケースが指摘されています。
第3章 メンタルヘルスへの影響
3-1. 分離不安の軽減と転移
常に飼い主がいることで、留守番ストレスは一時的に減少。しかし在宅勤務から出社に戻った際、再分離不安 が起きやすくなると行動学者は警鐘を鳴らしています(ABS 2023)。
3-2. 騒音ストレスと集中妨害
オンライン会議の声やキーボード音が猫の休息を妨げるという報告も。猫は平均 50dB 強の連続音で睡眠時間が 15% 減少(Feline Med Surg 2022)。
第4章 健康指標に現れる変化
4-1. 体重・体脂肪
在宅勤務開始から 6 か月で、BCS が 1 段階上昇した犬猫は 28%。運動不足と間食増が主因。逆に散歩時間が倍増し痩せすぎに傾く例もあるため、適正カロリーの再計算 が必須です。
4-2. 消化器・排泄リズム
散歩時間が細切れになると排便リズムが崩れ、便秘や下痢が増える傾向。猫ではトイレ利用を飼い主が頻繁に邪魔すると排尿回数が減り、ストルバイト結石リスクが上がる。
4-3. 筋骨格と姿勢
飼い主が床に座る時間が増えると、膝の上や背もたれで丸まる姿勢が長時間続き、特に小型犬で腰椎負担が増える事例が報告されています。
第5章 ケーススタディ
5-1. コーギーの体重管理失敗例
在宅ワーカーが1日5回小分け散歩→心拍数は上がらず、3か月で体重+1.2kg。週3回、30分の一貫した早歩き散歩に変更し、2か月で元の体重へ。
5-2. ラグドールの睡眠リズム正常化
24時間空調+静音ヘッドセット導入で、昼間の睡眠時間が1.5時間増加。夜間の運動会(家の中を走り回る行動)がほぼ消失。
第6章 飼い主ができる 5 つの調整ポイント
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固定タイムテーブル:食事・散歩・遊びを毎日ほぼ同時刻に設定。
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質の高い運動:1 日 1 回は 20 分以上、心拍が上がる運動を取り入れる。
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ノンフード報酬:おやつの代わりに声かけや撫ででご褒美を。
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静音環境づくり:会議中は個室、またはペット用ホワイトノイズを活用。
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“練習留守番”:週 2 回、30 分の外出を行い、再分離不安を防止。
第7章 未来予測とハイブリッド勤務への備え
多くの企業がハイブリッド勤務へ移行しつつあります。在宅と出社を交互に行うことで、ペットは「変化が常態化」した生活に慣れる必要があります。段階的に留守番時間を延ばすソーシャライゼーションや、ペットカメラ・自動給餌器の活用が鍵となるでしょう。
まとめ
在宅勤務はペットにとってプラスにもマイナスにも働く両刃の剣です。
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飼い主がいる安心感は大きいが、生活リズムの乱れに注意
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食事・運動・睡眠の質を"時間固定"と"メリハリ"で整える
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メンタル面は"適度な距離感"と"練習留守番"でフォロー
科学的データと日々の観察を組み合わせ、“働きやすさ”と“ペットの健康”を両立させましょう。