去勢・避妊手術の後に気をつけたいホルモンバランスと健康変化

去勢・避妊手術の後に気をつけたいホルモンバランスと健康変化

はじめに

犬や猫の去勢・避妊手術は、望まない繁殖を防止し、性ホルモンが原因の問題行動や病気リスクを軽減するための基本ケアです。日本小動物獣医師会の調査(2023)によれば、成猫の避妊率は85%を超え、成犬の去勢率も70%に達しています。しかし、術後にはホルモン分泌の急激な変化に伴い、体重増加や行動の変化、泌尿生殖器系のトラブルなど新たな健康課題が現れます。本記事では、術後に起こりやすいホルモンバランスの変化とその影響を6つの章で整理し、具体的な予防・対策法を紹介します。


第1章 ホルモンの仕組みと手術後の影響

1-1 性ホルモンの役割

性ホルモン(エストロゲン・テストステロン)は、生殖機能の調整だけでなく、食欲や代謝、骨密度、行動パターンにも影響を及ぼします。エストロゲンは女性ホルモンとも呼ばれ、脂肪の蓄積を抑え、骨を強く保つ働きがあります。テストステロンは筋肉量維持と攻撃性抑制に関わります。

1-2 手術によるホルモン減少の波及効果

去勢(♂)・避妊(♀)手術でこれらのホルモンが急激に低下すると、基礎代謝が10〜20%低下し、エストロゲン欠乏による骨密度の減少や、テストステロン低下に伴う筋肉萎縮が起こり得ます。術直後は麻酔と痛みで活動量も落ち、代謝変化と重なり体重増加リスクが高まります。


第2章 体重管理と代謝変化

2-1 基礎代謝の低下と体重増加

術後3か月以内に平均5〜10%の体重増加を示すケースが報告されています(日本獣医内科学アカデミー2022)。基礎代謝が下がる一方、食欲は術前と同等のままという個体が多く、カロリー摂取と消費のバランスが崩れやすいのです。

2-2 食生活の見直しポイント

  • フードの切り替え:術後用低カロリー高たんぱくフードへ移行(1週間かけて徐々に)。

  • 給餌量の調整:術前の80〜90%を目安にパッケージ記載量を見直す。

  • 食事回数分割:1日2回から3〜4回に増やし、血糖値と満腹感を安定させる。


第3章 行動・性格の変化とケア

3-1 リラックス傾向と攻撃性低下

性ホルモンの減少により、多くの犬猫が以前より穏やかになります。散歩中のマーキングや発情期特有の鳴き声が減るのはメリットです。一方で、遊びへの興味や活動量が低下する場合があり、ストレス解消のための別の刺激が必要です。

3-2 ストレス対策および運動プラン

  • 知育玩具:おやつを隠して探すフードパズルで頭を使わせる。

  • 軽い運動:術後2週間以降は短い散歩(5〜10分)を日に数回取り入れる。

  • コミュニケーション:ハンドリングやなでる時間を増やし、安心感を高める。


第4章 泌尿生殖器系の留意点

4-1 尿石症や尿失禁のリスク

去勢猫に多い尿道結石(ストルバイト)や、雌犬の術後に起こるホルモン性尿失禁は、ホルモンバランス変化が一因です。抗利尿ホルモンやエストロゲン欠乏が尿道括約筋の緊張を弱め、漏れやすくなります。

4-2 予防と早期発見

  • 利尿ケアフード:pHコントロールとマグネシウム調整で結石リスクを低減。

  • トイレ頻度の管理:1日2〜4回必ず外出やトイレスペースへ誘導。

  • 定期検診:術後6か月、1年ごとに尿検査を実施。


第5章 長期的な健康リスクと対策

5-1 骨関節・筋肉への影響

エストロゲン低下により骨密度が約5%減少するとの報告があり(米国獣医骨学会2021)、老齢期の骨折リスクが僅かに高まります。筋力低下を防ぐには適度な運動とたんぱく質維持が重要です。

5-2 免疫・内分泌系の変化

術後はインスリン感受性が変化し、糖尿病リスクがわずかに上昇する研究があります。肥満予防と血糖コントロールのため、体重チェックとフード管理を継続しましょう。


第6章 具体例とチェックリスト

項目 ポイント
体重 月1回の体重測定、BCSで肥満度確認
食事 低カロリー高たんぱくフード、1日3〜4食に分割
運動 1回10分×3回、知育玩具で精神的刺激も
尿検査 術後6か月・12か月で実施、早期のpH変化に注意
呼びかけ ハンドリング・コミュニケーションの時間を1日10分増やす

まとめ

去勢・避妊手術は大切な健康管理ですが、術後のホルモン変動に伴う体重増加、行動変化、泌尿器トラブル、骨・免疫系のリスクを理解し、食事・運動・定期検診を組み合わせたケアが必要です。手術前の獣医師相談と、術後の観察・記録をしっかり行い、愛犬・愛猫の健康な生活を長くサポートしましょう。