はじめに
梅雨から真夏にかけて、日本列島は高温多湿の気候となり、犬や猫の皮膚疾患が例年増加すると報告されています。湿度が 70% を超えると、皮膚表面に常在する菌やカビが繁殖しやすくなり、湿疹や外耳炎、膿皮症などの発症リスクが高まると複数の研究が示唆しています(日本獣医皮膚科学会 2023)。本記事では、湿度と皮膚コンディションとの関係を掘り下げ、家庭でできる具体的な予防法やケア方法を解説します。
第1章 湿度が皮膚に与えるメカニズム
1-1. 皮膚バリア機能の低下
皮膚表面は角質層と皮脂膜で守られていますが、高湿度環境では過剰に水分を含み、角質細胞の結合がゆるむためバリア機能が低下します。その結果、細菌や真菌が侵入・増殖しやすくなり、炎症やかゆみを誘発します。
1-2. 常在菌バランスの乱れ
健康な皮膚には常在菌がバランスよく存在していますが、高温多湿になると黄色ブドウ球菌やマラセチア(酵母菌)が優勢になりがちです。これらが増殖すると膿皮症や脂漏症を発症しやすくなると報告されています。
第2章 代表的な梅雨〜夏の皮膚トラブル
2-1. 湿疹(ホットスポット)
短時間で急速にジュクジュクした炎症が広がる急性湿疹。長毛種は被毛が乾きにくく、放置すると感染が悪化しやすい点に注意が必要です。
2-2. 膿皮症
主に犬で見られる化膿性皮膚炎で、赤いブツブツや輪状の脱毛斑が特徴。高湿度下でブドウ球菌が増殖すると発症リスクが上がります。
2-3. 外耳炎
耳道が狭く垂れ耳の犬や、耳毛が多い犬猫は耳内の湿気が逃げにくく、マラセチア性外耳炎を起こしやすい傾向があります。
第3章 予防のための環境コントロール
3-1. 室内湿度を 45〜60% に保つ
エアコンの除湿モードや除湿機を活用し、湿度計を設置して可視化しましょう。特にケージ周辺や寝床は空気が滞留しやすいので小型のサーキュレーターを併用すると効果的です。
3-2. 寝具とケージの換気
吸湿性の高いコットンや麻素材のベッドカバーを選び、週 1 回は洗濯・天日干しを。プラスチック製ケージは内部が蒸れやすいため、底面に珪藻土マットや通気シートを敷くと湿気がこもりにくくなります。
第4章 グルーミングとスキンケア
4-1. シャンプー頻度と製品選び
皮脂が過剰になりがちな季節は、2〜3 週間に 1 回を目安に低刺激シャンプーで洗浄し、しっかり乾かすことが重要です。抗真菌成分(ケトコナゾールなど)配合シャンプーは、マラセチア性皮膚炎の予防に推奨されています。
4-2. ブラッシングで通気性確保
抜け毛や絡み毛は湿気を保持し菌の温床になります。長毛種は 1 日 1 回、短毛種でも週 2〜3 回のブラッシングで被毛を整え、皮膚の通気性を高めましょう。
第5章 食事とサプリメントによる内側ケア
5-1. 必須脂肪酸で皮膚バリア強化
オメガ 3 脂肪酸(EPA・DHA)は抗炎症作用があり、皮膚バリア機能を支えると研究で示されています。サーモンオイルや亜麻仁油を適量フードに加える方法が一般的です。
5-2. プロバイオティクス
腸内フローラと皮膚免疫は密接に関連するとされ、乳酸菌やビフィズス菌サプリを与えることでアレルギー性皮膚炎の症状が緩和した例も報告されています。
第6章 病院を受診すべきサイン
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強いかゆみで掻き壊している
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湿疹が 48 時間以内に拡大
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耳垢が黒く悪臭がある
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脱毛斑が多発、皮膚がベタつく
これらは感染が進行している可能性が高く、細菌培養や真菌検査、抗生剤・抗真菌剤処方が必要になるため早期受診を。
第7章 湿度管理で皮膚炎が改善したケース
柴犬を飼う家庭では、梅雨どきになると毎年膿皮症に悩まされていました。獣医師の提案でリビングに除湿機を設置し、湿度を 55% 前後にキープ。さらに 2 週間ごとに抗真菌シャンプーを実施した結果、その年は発症せずに過ごせたとの報告があります。
まとめ
梅雨〜夏の高湿度は犬猫の皮膚バリアを崩し、細菌や真菌の増殖を促進します。環境コントロールと適切なスキンケア、内側からの栄養補給で、トラブルを未然に防ぎましょう。
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室内湿度は 45〜60% を目安に除湿
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シャンプーとブラッシングで清潔・通気性をキープ
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オメガ 3 やプロバイオティクスで皮膚の抵抗力を強化
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異常が続く場合は早めに獣医師へ
小さな工夫の積み重ねが、ジメジメした季節を快適に乗り切るカギとなります。